イーサリアムは巻き戻せるのか?バイビットのハッキング事件とロールバックの議論

参照元:コインテレグラフジャパン

2024年2月21日、大手暗号資産(仮想通貨)取引所 バイビット(Bybit) で、史上最大級の不正流出事件が発生しました。

ハッカーは、取引所のウォレット(資産を管理するシステム)に仕掛けられた 悪意のあるコード を利用し、多額のイーサリアム(ETH)を盗みました。

この攻撃は、通常の取引に見えるように巧妙に偽装されており、システムの異常に気付いた時にはすでに 資産が流出 していたのです。

この事件を受けて、仮想通貨業界では「イーサリアムのロールバックをすべきだ」という意見が出ています。

ロールバックとは?なぜ求められているのか?

「ロールバック」とは、簡単に言うと ブロックチェーン(暗号資産の取引履歴)を過去の状態に巻き戻すこと です。

今回のバイビットの事件では、「2月21日以前の状態に戻せば、盗まれたイーサリアムを取り戻せるのでは?」という考えから、一部の仮想通貨関係者が ロールバックを提案 しています。

しかし、イーサリアムの コア開発者であるティム・ベイコ氏 は、この提案には大きな問題があると指摘しました。

過去のロールバック成功例「The DAO事件」との違い

ロールバックの議論が出ると、よく引き合いに出されるのが 2016年の「The DAO事件」 です。

この事件では、ハッカーが スマートコントラクト(ブロックチェーン上で動くプログラム) の 脆弱性(弱点) を突いて、当時流通していた イーサリアムの約15% を盗みました。

しかし、このときは システムの安全装置が働き、資金の引き出しが1か月間停止 されていました。

その間に 開発者が問題を修正 し、結果として イーサリアムのロールバックが実施 されたのです。

一方、今回の バイビットのハッキング では、ハッカーが即座に 盗んだ資金を移動 してしまいました。

これにより、すでに多くの取引が行われてしまい、単純に「過去に戻す」ことが難しくなっています。

ロールバックがもたらす影響とは?

ベイコ氏は、現在のイーサリアムは2016年当時と比べて はるかに多くの仕組みとつながっている ため、ロールバックは「非常に大きな問題を引き起こす」と警告しています。

イーサリアムは今、以下のような場面で使われています。

✅ 分散型金融(DeFi) … イーサリアムを使って借入や貸出ができる仕組み
✅ クロスチェーンブリッジ … 他の暗号資産とつなぐ技術
✅ NFTマーケット … デジタルアートやゲームアイテムの売買

もし ロールバックが行われた場合、これらすべての取引が 過去の状態に戻される ことになります。

その結果、数千人以上のユーザーが資産を失ったり、不正な利益を得たりする可能性がある のです。

ロールバックのコストは15億ドル以上?

ブロックチェーン企業 ユガラボ(Yuga Labs) の 0xQuit氏 は、ロールバックが行われた場合 「影響額は15億ドル(約2250億円)を超える」 と指摘しています。

「何千人もの人々が資産を失い、逆に何千人もの人々が不当な利益を得ることになる」と述べ、ロールバックの リスクの大きさ を強調しました。

また、イーサリアムは現在、DeFiやNFTの基盤として機能しており、すべての取引履歴を巻き戻すことは 現実的に不可能 だとも述べています。

ロールバックを求める意見も

それでも、ロールバックをすべきだ という意見もあります。

仮想通貨企業 Jan3のCEO サムソン・モウ氏 は、「盗まれたイーサリアムが 北朝鮮の核兵器開発に利用される可能性がある ため、資金を回収するべきだ」と主張しました。

また、仮想通貨取引所 ビットメックス(BitMEX)の共同創設者 アーサー・ヘイズ氏 は、イーサリアムの創設者 ヴィタリック・ブテリン氏 に対し、「ロールバックを推進するよう提案してほしい」とX(旧Twitter)で呼びかけています。

バイビットCEOの立場は?

この問題に対して、バイビットのCEOである ベン・チョウ氏 は 中立的な立場 を取っているようです。

2月22日に行われたX(旧Twitter)のスペースで、イーサリアムのロールバックについての質問を受けたチョウ氏は、以下のように回答しました。

「ブロックチェーンの理念を考えると、コミュニティの意見を反映するために投票プロセスを経るべきかもしれない。しかし、現時点では何とも言えない。」

この発言からも分かるように、チョウ氏は 「イーサリアムのロールバックが良いか悪いか」を明言していません

彼が慎重な姿勢を取っている理由として、次のようなポイントが考えられます。

  1. ロールバックが実施される可能性が低いことを理解している
    • イーサリアムのロールバックは、過去のトランザクション(取引記録)をすべて巻き戻すことを意味します。これにより、多くの取引が無効になり、影響が広範囲に及ぶため、実現のハードルは非常に高いと考えられています。
  2. バイビット自身がロールバックを求める立場にない
    • バイビットはあくまで取引所であり、イーサリアムの開発やネットワークの管理を直接行っているわけではありません。そのため、ロールバックを求めるかどうかは バイビットだけの判断で決められるものではなく、イーサリアムの開発者やコミュニティの意向に従うしかない のです。
  3. バイビットの信用問題
    • もしバイビットが強くロールバックを求めた場合、「取引所が暗号資産のルールを変えようとしている」という印象を与え、バイビット自体の信用を損なう可能性があります。

つまり、チョウ氏は 「ブロックチェーンの理念を守るべき」という立場を示しつつ、最終的な判断はコミュニティに委ねるべきだ という姿勢を取っているのです。

バイビットは今後どうするのか?

現在、バイビットは セキュリティ対策の強化 と 被害の補填(ほてん) について検討を進めているとされています。

取引所としては、今回のハッキング事件による影響を最小限に抑えるために、顧客資産の保護策を講じることが求められています。

今後、バイビットがどのような対応を取るのか、そしてイーサリアムのロールバック問題がどのように進展するのか、業界全体が注目しています。

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