2023年の9月、金融の未来への大きな一歩が上海石油天然ガス取引所(SHPGX)で目撃されました。
この歴史的瞬間に、ペトロチャイナ・インターナショナルはデジタル人民元(e-CNY)を使用して、100万バレルの原油を購入しました。
この取引は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のデジタル人民元が実際の国際商取引で使用された初めての事例として、世界中から注目を集めています。
アメリカのドルが長年にわたり世界の基軸通貨として君臨してきましたが、その地位は国力、経済力、そして国際的な信用度によって支えられています。
特に、原油取引における決済通貨としての役割は、一国の通貨が国際舞台でどれだけの影響力を持っているかを示す重要な指標の一つです。
過去、主要産油国は米ドル以外の通貨での決済をほとんど認めてきませんでしたが、デジタル人民元によるこの取引は、既存の金融体系に新たな可能性を示唆しています。
中国人民銀行が世界に先駆けて導入したデジタル人民元は、発行から数年で急速にその使用範囲を拡大しています。
デジタル人民元が原油取引において決済通貨として使用されることは、世界経済における中国の影響力の増大を象徴しているとともに、デジタル通貨の実用性とその将来性に対する信頼を示しています。
本記事では、デジタル人民元の経済圏の拡大が何を意味しているのか、そしてこれが世界の金融システムにどのような影響を与える可能性があるのかについて、詳しく掘り下げていきます。
デジタル通貨がいかにして国際貿易の構造を変革し、新たな経済秩序を築き上げているのかを、デジタル人民元を中心に見ていくことで、未来の金融の姿を探求します。
中国のデジタル通貨革命: デジタル人民元の道のり
2014年、世界の経済大国である中国は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発において重要な一歩を踏み出しました。
中国人民銀行はこの年に専門チームを立ち上げ、デジタル通貨の研究を正式にスタートさせました。
この動きは、新興国を含む世界各国がCBDCの開発及び導入に関心を持ち始める中で行われ、中国はその先駆者として位置づけられました。
この時点で、中国はすでに世界第2位の経済規模を誇り、その影響力を背景にデジタル通貨の実現に向けた野心的な計画を進めていきました。
実証実験の展開
中国のデジタル人民元は、初期段階から着実に実証実験が進行しています。
2020年4月、中国はデジタル人民元の実証実験を深圳、蘇州、雄安新区、成都の4カ所、そして2022年の北京冬季オリンピック・パラリンピック会場で行うことを発表しました。
この実験は、デジタル通貨の実用性と広範な採用への可能性を探るための重要なステップです。
深圳市では、特に注目された実証実験が行われました。5万人の市民に対し、1人200元(約3,200円)相当のデジタル人民元が抽選で配布され、参加者はこのデジタル通貨を3,389の商店で利用することができました。
この実験は、デジタル人民元の日常生活での利便性と受け入れられやすさをテストする貴重な機会を提供しました。
拡大する実験エリア
その後、実証実験の範囲は拡大し、上海、海南、長沙、西安、青島、大連の6カ所が新たな実験エリアとして追加されました。
蘇州では、さらに大規模な実験が実施され、10万人の市民にデジタル人民元が配布され、1万以上の参加商店や大手ECサイトである京東集団(JD.com)でのオンラインショッピングにて使用されました。
これらの実験を通じて、オフライン決済機能も導入され、デジタル人民元の利用範囲はさらに広がりを見せています。
これらの実証実験は、デジタル人民元の導入に向けた中国の確固たる意志を示しています。
日常生活での利用から国際貿易における応用まで、デジタル人民元は多方面でその潜在能力を示し始めています。
中国がこのデジタル通貨によってどのような経済的及び社会的影響を生み出すことができるのか、その動向は世界中から注目されています。
デジタル通貨の時代への移行は、金融の未来において革命的な変化をもたらす可能性があり、中国はその最前線にいます。
デジタル人民元の展望: 中国の金融革新への道
2021年7月、中国の金融革新における重要なマイルストーンが達成されました。
中国人民銀行は、「中国におけるE-CNYの研究開発の進展」と題する白書を公開し、デジタル人民元(e-CNY)の研究と開発に関するこれまでの成果を世界に報告しました。
この文書は、デジタル人民元の目的と目標、そしてその導入によって中国の金融システムにもたらされる期待される影響についての詳細な洞察を提供しています。
デジタル人民元の目的
白書によると、デジタル人民元の発行はいくつかの重要な目的を達成することを目指しています。
まず、現金の形態を多様化し、より広範な金融包摂を促進すること。
これは、現金依存度を減らし、デジタル経済への移行を促進するために不可欠です。
さらに、リテール決済サービスにおける公正な競争を促進し、効率性と安全性を高めることも目標に挙げられています。
また、国際機関と協力して、クロスボーダー決済の効率化と改善を目指しています。
これらの目的は、国内外での金融取引の現代化と最適化を目指す中国の大規模な取り組みを反映しています。
現金使用の減少とモバイル決済の台頭
中国人民銀行が2019年に実施した調査により、中国における現金使用の割合が急速に減少していることが明らかになりました。
この調査では、モバイル決済による取引が全体の59%を占め、現金での支払いはわずか16%、カードでの支払いは23%に過ぎませんでした。
さらに、調査対象者の約46%が調査期間中、一度も現金を使用しなかったと報告しています。
これらのデータは、デジタル決済の普及が中国社会において急速に進んでいることを示しており、デジタル人民元の導入がこの流れをさらに加速させることが期待されています。
デジタル人民元の導入は、中国が直面している金融包摂の課題に対処し、国内外での決済システムの効率性と安全性を向上させる機会を提供します。
モバイル決済の台頭と現金使用の減少という現在のトレンドは、デジタル通貨の導入がタイムリーであり、社会に広く受け入れられる可能性が高いことを示しています。
中国のデジタル人民元プロジェクトは、世界中の他の国々にとってのモデルとなり、将来の金融革新の方向性を示しています。
中国の法定デジタル通貨の仕組みと目標
デジタル人民元は、中国の法定通貨である従来の人民元の紙幣や硬貨と同じく、中国国内での合法的な支払い手段です。
このデジタル通貨は、価値ベース、準口座ベース、口座ベースのハイブリッド決済手段として設計されており、貨幣の基本機能を全て備えています。
その結果、法定通貨としての確固たる地位を有し、同時に緩やかな口座連携も実現しています。
運用の中心: 中国人民銀行
デジタル人民元の運用は、集中管理モデルと二層運用システムに基づいています。
このシステムの中心には中国人民銀行があり、デジタル人民元の発行量を把握し、その流通を監督しています。
中国人民銀行は、商業銀行やその他認定された業者にデジタル人民元を発行し、そのライフサイクル全体を管理します。
第2層の役割: 認定業者と商業機関
デジタル人民元の交換と流通は、「第2層」に位置する認定業者や商業機関によって行われます。
これにより、デジタル人民元は主に流通現金の代替として機能し、既存の人民元と共存する形で使用されます。
これは、デジタル通貨の普及を促進しつつ、従来の通貨システムとの平滑な移行を図る戦略です。
CBDCの2つのカテゴリー
中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、その利用者と目的に応じて、ホールセールCBDCとリテールCBDCの2種類に分類されます。
ホールセールCBDCは、大口決済に特化し、商業銀行や機関投資家などを対象としています。
一方、リテールCBDCは、日常的な取引に適用され、一般消費者向けに発行されます。
デジタル人民元は、このリテールCBDCに該当し、一般消費者が日常生活で利用するためのデジタル法定通貨として位置づけられています。
デジタル人民元の目標と利点
デジタル人民元の発行は、中国国内のリテール決済需要に対応し、現代的な決済システムの効率をさらに向上させることを目的としています。
このデジタル通貨は、小売決済のコストを削減し、より迅速かつ安全な取引を実現することで、国民の日常的な決済ニーズを十分に満たすことを目指しています。
デジタル人民元の導入は、中国の金融システムの近代化をさらに推進し、国内外でのデジタル経済の発展に貢献すると期待されています。
デジタル人民元の革新的特徴とその影響
デジタル人民元は、中国の法定通貨として従来の人民元と同様に扱われ、その使用は国民の日常生活に深く根付いています。
このデジタル通貨は、従来の紙幣や硬貨と共存し、現代のデジタル経済のニーズに応える形で設計されています。
利息の非適用と手数料無料の両替
デジタル人民元の保有に利息は付かず、ユーザーのウォレット内の通貨は静的な資産として機能します。
さらに、中国人民銀行は公認業者に対して人民元との両替や流通サービスの料金を請求せず、公認業者も個人顧客に対して両替に関する手数料を請求していません。
この手数料の無料化は、デジタル通貨の普及とアクセスの容易さを大幅に向上させています。
個人情報保護とプライバシーの重視
デジタル人民元は、「少額決済は匿名、高額決済は追跡可能」という原則に基づき、個人情報保護とプライバシーを重視しています。
この原則は、従来の電子決済システムに比べてプライバシー保護を強化しており、第三者や他の政府機関への情報提供を最小限に抑えています。
情報セキュリティの強化
中国人民銀行は、デジタル人民元に関する情報セキュリティとプライバシーを保護するための厳格なプロトコルを実施しています。
これにはファイアウォールの設置、情報管理担当者の任命、内部監査の実施などが含まれます。
これらの措置は、恣意的な情報の要求や使用を防ぎ、デジタル通貨の信頼性を保証します。
技術的保護措置
デジタル人民元は、電子証明書システム、電子署名、暗号化保存などの技術を採用しており、二重支出、不正な複製や偽造、取引の改ざん、否認を防止します。
これらの技術的措置は、デジタル通貨の安全性と信頼性を確保するために不可欠です。
ビジネスモデルの革新
デジタル人民元は、スマートコントラクトの導入を通じてビジネスモデルの革新を促進します。
これにより、事前に定義された条件や条項に従って自動的に実行される支払いが可能になり、取引の透明性と効率性が向上します。
デジタル人民元は、そのユニークな特徴と革新的な技術を通じて、金融のデジタル化と近代化における中国の先駆的な取り組みを示しています。
利便性とセキュリティの強化、プライバシー保護の重視、そしてビジネスモデルの革新は、デジタル人民元が中国だけでなく、世界のデジタル経済に与える影響の大きさを物語っています。
デジタル人民元の将来展望
将来的に、デジタル人民元は認定事業者のデジタル口座資金と相互運用可能になり、例えば「○○ペイ」のようなデジタル決済サービスと共存することが可能です。
この相互運用性は、顧客にとってより柔軟で利便性の高い決済オプションを提供し、国内決済市場の効率性とアクセス性を向上させることに貢献します。
コンプライアンスとリスク管理
商業銀行や認可を受けたノンバンクの決済機関は、マネーロンダリング防止やテロ資金対策などのコンプライアンス要件を満たすことで、中央銀行の承認を得てデジタル人民元決済システムに参加できます。
これにより、既存の決済インフラを最大限活用しながら、デジタルリテール決済サービスを提供することが可能になります。
クロスボーダー決済の改善
デジタル人民元は、クロスボーダー決済の効率化と改善を目指しており、通貨主権や為替政策、規制やコンプライアンスなど、国際社会が直面する複雑な問題に対処することを目指しています。
国際的な役割を果たすためには、経済のファンダメンタルズや金融市場の深さ、効率性、開放性が重要な要素となります。
国際的な取り組みと協力
中国人民銀行は、G20やその他の国際機関と協力し、国境を越えた決済の改善に関するイニシアチブに積極的に対応していきます。
これには、クロスボーダー決済におけるCBDCの適用可能性の探求や、試験的なクロスボーダー決済プログラムの検討が含まれます。
相互接続性と規制協力
通貨主権とコンプライアンスを尊重しつつ、中国人民銀行は、不利益のない、コンプライアンスを重視した、相互接続性に基づく関係を構築することを目指しています。
これは、中央銀行や通貨当局との間でデジタル不換紙幣に関する交換取り決めや規制協力メカニズムを築くことを意味します。
デジタル人民元の将来展望は、国内外での相互運用性の強化、クロスボーダー決済の効率化、そして国際社会での積極的な役割を果たすことに焦点を当てています。
この取り組みは、グローバルな経済と金融の未来において中国が果たす役割をさらに強化し、デジタル人民元の国際的な採用と影響力を拡大することに寄与するでしょう。
CBDCの意味とデジタル人民元の影響
CBDCは、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨です。
従来の紙幣や硬貨と同じ価値を持ち、中央銀行が直接または間接的に管理します。
CBDCは、リテール(一般消費者向け)とホールセール(金融機関間取引向け)の二つの主要な形式に分類されます。
デジタル人民元のリスク軽減戦略
デジタル人民元はリテールCBDCの例であり、中国人民銀行が発行しています。
金融ディスインターメディエーションのリスクや、金融政策への潜在的な影響に対処するため、中国人民銀行はトップレベルの設計を通じて、金融の安定と金融政策の効果を維持することに重点を置いています。
リテールCBDCの国内外での影響
リテールCBDCは、金融市場や金融安定にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。
国や機関によって見解が異なりますが、中国では、デジタル人民元の導入が金融システムや金融政策、市場に与える影響を慎重に監視し、潜在的な負の影響を防ぐための措置を講じています。
デジタル人民元の実用化とその影響
デジタル人民元は、公共料金の支払い、交通機関、ショッピング、政府サービスなど、幅広い領域での利用が進んでいます。
2023年6月末の取引総額は1兆8000億元に達し、急速な普及が見られます。
さらに、地方政府によるデジタル人民元の配布や、異なるシナリオでのパイロットテストが行われています。
デジタル人民元のイノベーションと包括性
デジタル人民元は、スマートフォンがなくても利用可能なハードウェアウォレットのテストや、2022年冬季オリンピックでの無人自動販売機やウェアラブルデバイスを使った支払いなど、革新的な支払いシナリオを実験しています。
これらの取り組みは、決済の効率化やコスト削減、デジタルデバイドの解消に貢献し、広範な層のユーザーに利便性と包括性を提供しています。
デジタル人民元の導入は、中国の金融システムにおける大きな革新であり、国内外での金融のデジタル化推進に重要な役割を果たしています。
リスク軽減と金融の安定を目指した慎重な設計と実装により、デジタル人民元は将来的に国際的なクロスボーダー決済の改善にも寄与する可能性を秘めています。
まとめ
中国の経済的影響力は、そのGDPや輸出の世界シェアの拡大により、着実に高まっています。
この背景の中、人民元の国際化への取り組みは、2015年の人民元建てのクロスボーダーインターバンク決済システム(CIPS)の稼働や、2016年に特別引出権(SDR)への採用という重要なマイルストーンを迎えました。
しかし、CIPSの取引数はまだ国際銀行間通信協会SWIFTに及ばず、人民元の国際通貨としてのシェアは限定的です。
デジタル通貨の登場は、この状況を変える可能性を秘めています。特に、「一帯一路」構想に関連する国々でのデジタル通貨決済の推進は、人民元の国際化を一層加速させる可能性があります。
この点において、中国人民銀行はデジタル人民元の影響に関する研究を強化し、金融政策やシステム、そして金融の安定への影響を深く分析しています。
さらに、国際的な意見交換の場に積極的に参加し、オープンで包括的な方法で基準設定についての議論を進めています。
法定通貨のデジタル化は世界中で議論されており、特に先駆者である中国におけるデジタル人民元の動向は、今後の国際金融システムにとって重要な注目点です。
デジタル人民元が提供する迅速な決済の可能性とその国際化の動きは、グローバルな経済と金融の未来において中国が果たす役割をさらに強化し、世界中の金融政策やシステムに深い影響を与えることが予想されます。
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