最近、多くの企業がビットコインを保有し始めています。これは単なる流行ではなく、企業の財務戦略に大きな変化が起こっている証拠です。
企業はこれまで、資産を守るために現金や債券(企業や政府が発行する借金の証明書)を持っていました。
しかし、インフレ(物の値段が上がり、お金の価値が下がること)や低金利(銀行にお金を預けてもほとんど増えない状況)が続く中で、現金を持ち続けることに疑問が生まれています。
そんな中、企業の新たな選択肢として登場したのが「ビットコイン」です。
これは、中央銀行が管理しないデジタル通貨で、発行量が決まっているため価値が下がりにくいという特徴があります。
企業がこの資産を活用することで、新たな財務戦略を築こうとしているのです。
マイクロストラテジー:ビットコイン戦略の先駆者
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ビットコインを企業の資産として活用する最も有名な事例が MicroStrategy(マイクロストラテジー) です。
マイクロストラテジーは、アメリカのソフトウェア企業で、2020年から積極的にビットコインを購入しています。
この戦略を主導したのが、同社のCEO Michael Saylor(マイケル・セイラー) 氏です。
彼は「現金は溶ける氷のようなもので、時間が経つと価値が減ってしまう」と考え、会社の資産の多くをビットコインに変えました。
マイクロストラテジーは、ビットコインの購入資金を調達するために「転換社債(特定の条件で株式に変えられる借金)」や「株式(会社の所有権を分割して売るもの)」を発行し、独自の財務戦略を築いています。この結果、同社は事実上 「ビットコイン銀行」 のような存在になり、投資家は同社の株を購入することで間接的にビットコインを保有することができます。
2025年1月時点でマイクロストラテジーは 44万7470BTC(ビットコイン) を保有しており、これは企業として世界最大級の保有量です。
この戦略により、同社は 「ビットコインETF(上場投資信託)」 のような役割を果たすと同時に、投資家にとって「ビットコインを持つ手段」となっています。
ビットコインを測る新しい指標
マイクロストラテジーは、ビットコインを企業の財務に活用するための新しい指標を提唱しました。
それが以下の2つです。
1株当たりビットコイン(BPS)
BPS(Bitcoin Per Share)は、企業が発行している1株あたりにどれくらいのビットコインが含まれているかを示す指標です。
投資家はこの数値を見ることで、その企業の株を買うことで間接的にどれだけビットコインを持てるかを判断できます。
ビットコイン利回り
ビットコイン利回りは、一定期間において1株当たりのビットコイン保有量がどれだけ増えたかを示します。
企業がどれくらい効率的にビットコインを蓄積できているのかを知るための重要な指標となっています。
ビットコインを持つ企業は増えている
マイクロストラテジーの成功を受け、他の企業もビットコインをバランスシート(会社の資産や負債の一覧)に加え始めています。
現在、アメリカでは 70社以上 の上場企業がビットコインを保有しています。
例えば、
- Tesla(テスラ) – 電気自動車メーカー
- Coinbase(コインベース) – 暗号資産取引所
- Block(ブロック) – 決済サービス企業
テクノロジー企業だけでなく、さまざまな業界の企業がこの戦略を採用しているのです。
企業財務の新時代を支える規制の変化
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企業がビットコインを財務資産として保有しやすくなった背景には、規制の変化があります。
これにより、企業はより自由にビットコインを活用し、財務戦略の一部として取り入れることが可能になりました。特に重要なのが、以下の3つのルールの変更です。
SAB21の撤回(企業の会計ルールの変更)
SAB21(Staff Accounting Bulletin No. 121) とは、アメリカの証券取引委員会(SEC)が出した会計ルールで、企業がビットコインなどの暗号資産を保有する際に厳しい制限を設ける ものでした。
このルールでは、企業がビットコインを持つと、その価値が下がったときに損失として計上しなければならず、逆に価値が上がっても利益として記録できませんでした。
そのため、企業がビットコインを持つことに大きなリスクが伴っていました。
しかし、SAB21が撤回されたことで、企業はより柔軟にビットコインを財務資産として活用できるようになりました。
企業の財務戦略において、ビットコインを活用することのハードルが大きく下がったのです。
FASBの会計ルール変更(ビットコインの価値を正しく記録できるように)
FASB(Financial Accounting Standards Board) とは、アメリカの企業会計基準を決める機関です。
企業が財務諸表(会社の経済状況をまとめた報告書)を作成するときに、どのように記録するかを決める役割を持っています。
これまでのルールでは、企業がビットコインを持っている場合、その価値が下がったときは「損失」として計上する必要がありました。
しかし、価値が上がった場合は、売るまで「利益」として記録できませんでした。
つまり、ビットコインの価値が変動しても、企業の財務諸表には実際の価値が正しく反映されにくい仕組みだったのです。
しかし、2024年のFASBの会計ルール変更により、企業はビットコインの価値の変動をより正確に記録できるようになりました。
これにより、企業がビットコインを持つことのリスクが減り、投資家も企業の資産価値を正しく判断できるようになったのです。
2024年のビットコイン法案(法的な明確化が進む)
2024年には、ビットコインに関する新しい法案が提案されました。
それが 「Financial Innovation and Technology for the 21st Century Act(21世紀金融技術革新法)」 です。
この法案は、企業や機関投資家(銀行や年金基金などの大口投資家)がビットコインを保有しやすくするためのものです。
この法案のポイントは以下のとおりです。
- ビットコインの法的地位を明確にする
- これまで、ビットコインは「資産」なのか「通貨」なのか、はっきりしない部分がありました。この法案では、ビットコインをどのように扱うべきかを明確にし、企業や投資家が安心して運用できるようにします。
- 機関投資家がビットコインを保有しやすくなる
- 銀行や年金基金がビットコインを持つことに関するルールが整理され、より安全に投資できるようになります。これにより、大規模な企業や金融機関がビットコインを持つことが一般的になる可能性があります。
- 取引の透明性を向上させる
- 取引所やカストディアン(ビットコインを保管する業者)に対して、新しいルールを導入し、より透明で安全な取引環境を作ることが目指されています。
この法案が成立すれば、企業や投資家は安心してビットコインを保有できるようになり、ビットコインが企業の財務資産としてより普及する可能性が高まります。
この3つの変化により、企業がビットコインを財務戦略の一部として取り入れる環境が整ってきています。
✅ SAB21の撤回 → 企業がビットコインを自由に活用できるようになった
✅ FASBの会計ルール変更 → ビットコインの価値が正しく財務諸表に反映されるようになった
✅ 2024年のビットコイン法案 → 法的な枠組みが整い、機関投資家がビットコインを持ちやすくなった
これらの規制の進化により、企業がビットコインを保有することが一般的になりつつあります。
これからの企業財務では、「ビットコインをどう活用するか」 が重要なテーマになっていくでしょう。
日本企業にもビットコインは普及するのか?
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アメリカでは、企業がビットコインを財務資産として保有する動きが広がっています。
マイクロストラテジーのような企業が積極的にビットコインを買い、規制もそれを後押しする形になっています。
では、この流れは日本の企業にも広がるのでしょうか?
ここでは、日本でのビットコインの普及について 「可能性がある点」 と 「課題がある点」 を整理しながら考えてみましょう。
日本でもビットコインが普及する可能性がある理由
企業が現金の価値下落を心配している(物価の上昇)
今、日本でも物価が上がり、お金の価値が下がる 「インフレ」 が進んでいます。
例えば、同じ1000円でも数年前より買えるものが少なくなっていることを感じる人も多いでしょう。
企業も同じで、持っている現金の価値が下がると、将来の経営に影響を与えます。
そのため、価値が長期的に上がる可能性のあるビットコインを持つことは、企業にとって有利になるかもしれません。
日本でも会計ルールが変わる可能性がある(アメリカに追随)
アメリカでは FASB の会計ルール変更により、企業がビットコインを保有しやすくなりました。
日本の会計ルールはアメリカの影響を受けることが多いため、将来的に日本でも企業がビットコインを持ちやすくなるルール変更があるかもしれません。
一部の日本企業はすでにビットコインを活用している
実は、日本でもすでにビットコインを活用している企業があります。
例えば、以下のような企業がビットコイン関連の事業を展開しています。
- GMOインターネット(IT企業):ビットコインマイニング(採掘)事業を行う
- SBIホールディングス(金融企業):ビットコインを含む暗号資産の取引サービスを提供
- メルカリ(フリマアプリ運営会社):メルカリの決済サービスでビットコインの売買が可能
このような企業が増えれば、日本でも企業のビットコイン保有が進む可能性があります。
日本で普及が進みにくい可能性がある理由 - ① 日本の法律や会計ルールが厳しい
- 日本では、企業がビットコインを持つ場合、「暗号資産はリスクが高い」と判断されやすく、財務資産として計上しにくい という課題があります。
- また、アメリカでは 2024年のビットコイン法案 によって法的な枠組みが整えられていますが、日本ではまだ企業向けの明確なルールが少ないため、慎重な企業が多いのが現状です。
- ② 日本企業は「安定性」を重視する傾向が強い
- 日本企業は伝統的に「リスクを避ける経営」を重視します。そのため、価値の変動が大きいビットコインを持つことに慎重な企業が多いです。特に、大企業は「失敗を避ける」ことを優先するため、アメリカほど積極的にビットコインを取り入れる企業は少ないかもしれません。
- ③ 日本では銀行が強い
- アメリカでは、企業が資産運用のためにさまざまな投資を行います。しかし、日本では 「銀行に預ける」 ことが一般的で、リスクを取って新しい投資をする文化があまり根付いていません。
- そのため、すぐに日本企業がビットコインを大量に保有するようになるとは考えにくいのが現状です。
日本で普及が進みにくい可能性がある理由
日本の法律や会計ルールが厳しい
日本では、企業がビットコインを持つ場合、「暗号資産はリスクが高い」と判断されやすく、財務資産として計上しにくい という課題があります。
また、アメリカでは 2024年のビットコイン法案 によって法的な枠組みが整えられていますが、日本ではまだ企業向けの明確なルールが少ないため、慎重な企業が多いのが現状です。
日本企業は「安定性」を重視する傾向が強い
日本企業は伝統的に「リスクを避ける経営」を重視します。
そのため、価値の変動が大きいビットコインを持つことに慎重な企業が多いです。
特に、大企業は「失敗を避ける」ことを優先するため、アメリカほど積極的にビットコインを取り入れる企業は少ないかもしれません。
日本では銀行が強い
アメリカでは、企業が資産運用のためにさまざまな投資を行います。
しかし、日本では 「銀行に預ける」 ことが一般的で、リスクを取って新しい投資をする文化があまり根付いていません。
そのため、すぐに日本企業がビットコインを大量に保有するようになるとは考えにくいのが現状です。
今後の日本企業の動きはどうなる?
結論として、日本でもビットコインを保有する企業は増える可能性がありますが、アメリカほど急速には進まない でしょう。
今後、日本企業がビットコインを保有するためには、以下のような変化が必要になります。
✅ 法律や会計ルールが明確になり、企業が安心してビットコインを持てるようになること
✅ ビットコインの価格変動が落ち着き、「安全な資産」として認識されること
✅ すでにビットコインを活用している日本企業の成功事例が増えること
これらの条件が整えば、日本企業のビットコイン保有はもっと一般的になるでしょう。
そして、その動きが広がれば、日本の企業財務にも新しい時代がやってくるかもしれません。
今後、日本企業がどのようにビットコインを取り入れるのか、注目していきたいですね。
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