ミームコイン(Meme Coin)とは、インターネット上で話題になったジョークやネタをもとに作られた暗号資産(仮想通貨)のことです。
たとえば、「ドージコイン(Dogecoin)」は、柴犬の画像が元ネタの有名なミームコインです。
ミームコインは、大手企業が発行するようなコインとは異なり、冗談半分で作られることが多いですが、人気が出ると価格が大きく変動することがあります。
今回、アメリカの元大統領であるドナルド・トランプ氏が、自身の名前を冠した公式ミームコイン「TRUMP」を発行したことで、大きな注目を集めました。
これは、世界で初めて大統領経験者が直接関与するミームコインとなり、投資家たちの間で一気に話題になったのです。
「ローンチ」とは何?ミームコインの発行で何が起きた?
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ローンチ(Launch)とは、新しい商品やサービスを正式に公開することを意味します。
たとえば、新しいゲーム機が発売される日を「ローンチ日」と呼ぶのと同じです。
暗号資産の世界でも、新しいトークン(コイン)が市場に登場することを「ローンチ」と言います。
2025年1月18日、トランプ氏の公式ミームコイン「TRUMP」がローンチされました。
これは、トランプ大統領が再び政治の世界で注目を浴びている中での発行だったため、多くの投資家やファンが一斉に買いに走りました。
結果として、「TRUMP」の時価総額(市場全体の価値)は、わずか48時間で約100億ドル(約1兆5400億円)に急上昇しました。
取引所でもスポット(現物取引)や先物(将来の価格を予測して取引するもの)の上場が相次ぎ、2日間で200億ドル(約3兆円)もの取引が行われるほどの盛り上がりを見せました。
ムーンペイとは?なぜ資金が必要だったのか?
ムーンペイ(MoonPay)は、暗号資産を簡単に売買できるサービスを提供する企業です。
たとえば、クレジットカードでビットコインを買うようなサービスを運営しています。
暗号資産の売買には流動性(市場でお金がスムーズに動く状態)が重要であり、ムーンペイは多くの人がTRUMPを取引できるようにする役割を担っていました。
ところが、ローンチ直後の週末にTRUMPの取引需要が急増したため、ムーンペイの銀行口座ではすぐに必要な資金にアクセスできないという問題が発生しました。
さらに、翌月曜日(1月20日)は大統領就任式の祝日であり、銀行業務が停止していたため、必要な1億ドル(約154億円)の資金をすぐに用意できない状態に陥りました。
このままでは、ムーンペイがTRUMPの取引を円滑に進められなくなるため、急いで短期の資金調達をする必要がありました。
ギャラクシー・デジタルとは?最初の融資提供者
ムーンペイは、暗号資産投資会社であるギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)に資金提供を求めました。
ギャラクシー・デジタルは、仮想通貨関連の投資や融資を行う企業で、CEOのマイケル・ノヴォグラッツ(Michael Novogratz)氏は、暗号資産業界では有名な投資家です。
ムーンペイは彼に1億ドルの融資を打診し、ギャラクシー・デジタルは審査を経てこれを承認しました。
この資金により、ムーンペイはなんとか週末の取引に対応できるようになりました。
さらに追加資金が必要に…リップルに助けを求める
しかし、TRUMPトークンの需要は予想を超えるスピードで拡大し、さらにメラニア・トランプ(Melania Trump)氏の「MELANIA」トークンもローンチされたことで、さらに大きな資金が必要になりました。
ムーンペイは、追加で6000万ドル(約92億4000万円)の資金調達をしなければならない状況に陥りました。
そこで、リップル(Ripple)のCEOであるブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)氏に連絡を取りました。
リップルは、ブロックチェーン技術を使った送金ネットワークを提供する企業で、XRPという暗号資産を発行しています。
銀行間送金を高速化するための技術を開発しており、金融業界でも影響力のある企業です。
ムーンペイは、リップルに追加資金の支援を求め、CEOのソト-ライト氏の個人資産全額を担保に提供するなどの条件を満たすことで、リップルから6000万ドルの融資を受けることに成功しました。
その後の展開と「TRUMP」トークンの値動き
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ムーンペイは、祝日が明けた1月21日に、銀行口座から資金にアクセスできるようになり、ギャラクシー・デジタルとリップルへの融資を全額返済しました。
さらに、ローンチからわずか数日で、75万人の新規ユーザーを獲得するなど、大きな成長を遂げました。
最初の勢いで価格が急騰したものの、多くの投資家が利益確定のために売却し、急落してしまいました。
発行初日に時価総額(市場全体の価値)が100億ドル(約1兆5400億円)を超えました。
しかし、その後価格は下落し、執筆時点では約53億ドル(約8160億円)まで減少しています。
一方で、暗号資産市場全体の時価総額(すべての暗号資産の合計の価値)は、3兆5000億ドル(約538兆円)付近で推移しています。
つまり、「TRUMP」が急騰・急落したにもかかわらず、暗号資産市場全体の規模にはほとんど影響がなかったのです。
なぜ市場全体は変わらなかったのか?
Web3ゲームスタジオ「Mirai Labs(ミライ・ラボ)」の共同創業者ギャリソン・ヤン氏は、この現象について以下のように説明しています。
「TRUMPの時価総額は数十億ドルに達したが、暗号資産市場全体の時価総額はほとんど変化していない。確かに40万人以上の新規ユーザーが市場に参加し、暗号資産ウォレットのPhantom(ファントム)が一時的に世界で最も人気のあるアプリになった。しかし、実際には市場全体に新しいお金が流れ込んだわけではなく、単に一部の投資家が「TRUMP」に注目しただけだったようだ。」
このコメントからもわかるように、確かに多くの人がTRUMPの取引に参加しましたが、市場全体の規模はほぼ変わらなかったのです。
TRUMPに入った資金は新しいお金ではなかった?
ヤン氏は続けて、次のように述べています。
「TRUMPに入った資本のほとんどは新規ユーザーが投入したものではなかった。むしろ、すでに市場にある資金が移動しただけだった。特にソラナ(Solana)上のアルトコイン(ビットコインやイーサリアム以外の暗号資産)の動きを見れば、それが明らかだ。多くの投機的な資金が、一時的にソラナのエコシステムに流れ込んだだけだった。」
ここで出てきた「投機的な資金」とは、短期間で利益を狙うために動かされるお金のことです。
たとえば、株式市場で特定の銘柄が急に人気になったとき、一部の投資家が短期間で売買を繰り返して利益を得ようとするのと同じです。
TRUMPコインに流れ込んだお金も、新しい投資家が市場に資金を持ち込んだわけではなく、すでに暗号資産市場にあった資金が、TRUMPに流れ込んで、また別のアルトコインに移動しただけだったというのです。
これまでのまとめ:TRUMPミームコインの影響と市場の実態
2025年1月18日、ドナルド・トランプ氏の公式ミームコイン「TRUMP」が発行され、暗号資産市場で大きな話題となりました。
ローンチ直後に時価総額100億ドルを突破し、多くの投資家が注目しました。しかし、急騰した価格はその後下落し、数日後には53億ドルまで減少しました。
ムーンペイ(MoonPay)は、この急激な需要に対応するため、ギャラクシー・デジタルとリップルから合計1億6000万ドル(約247億円)の短期融資を受けました。
結果として、ムーンペイは危機を乗り越え、75万人の新規ユーザーを獲得しましたが、TRUMPコインの価格はピークから79%下落しました。
さらに、TRUMPトークンの影響を分析すると、暗号資産市場全体の時価総額(3兆5000億ドル)にはほとんど変化がなかったことが分かりました。
多くの新規ユーザーが市場に参入したものの、市場全体に新しい資金が流れ込んだわけではなく、既存の資金がTRUMPへ移動しただけでした。
特に、ソラナ(Solana)上のアルトコイン市場に短期的な資金移動が見られ、投機的な動きが中心だったことが明らかになりました。
今回のTRUMPミームコイン騒動は、短期間で市場を大きく動かす話題性の強さを示しましたが、暗号資産市場全体の成長には直接的な影響を与えなかったことがデータ分析から確認されました。
これにより、ミームコインの影響は短期的には大きくても、長期的な市場の成長とは別の話であることが分かります。
今後も、暗号資産市場において投機的なブームと実際の市場の成長を見極めることが重要になりそうです。
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