2023年3月10日、テクノロジー業界への支援で知られるシリコンバレー銀行（SVB）が経営破綻し、米連邦預金保険公社（FDIC）の管理下に入りました。
この出来事は、特にシリコンバレーのエコシステムにおけるその重要性を考えると、大きな波紋を呼びました。
さらに、シリコンバレー銀行の閉鎖に加えて、シグネチャー銀行とシルバーゲート銀行の事業停止が、既存の金融システムに対する信頼を揺るがし、これが暗号資産市場にも大きな影響を与えていることが明らかになりました。
これは、従来の金融機関とデジタル資産の相互関係を示しているとも言えます。
しかし、これらの銀行の破綻がもたらしたもう一つの大きな現象は、ビットコイン（BTC）への資金の流入です。
既存の金融システムに対する信用不安から、多くの投資家が安全な資産と見なされるビットコインへと資金を移動させています。
では、なぜシリコンバレー銀行は破綻に至ったのでしょうか？
そして、この破綻が暗号資産市場にどのような影響を与える可能性があるのか？
この記事では、これらの疑問に答えるために、破綻の背景とその後の市場動向について詳しく見ていきます。
シリコンバレー銀行の破綻と金融市場への連鎖反応
シリコンバレー銀行（SVB）とは、アメリカ・カリフォルニア州に本社を構える銀行で、主にテクノロジー業界のスタートアップやベンチャーキャピタル（VC）に対する金融サービスを提供していました。
2022年末時点での総資産は約2,090億ドル（約28兆円）に達し、これにより全米で16番目に大きな銀行となっています。
しかし、2023年3月にSVBが破綻し、これに伴いシグネチャー銀行とシルバーゲート銀行の事業も停止しました。
以下は、この破綻に至るまでの主な出来事の時系列です。
- 2023年3月8日: SVBは債券ポートフォリオを売却し、シルバーゲート銀行が銀行業務の縮小および任意清算を発表。
- 2023年3月9日: SVBが債券ポートフォリオの売却を完了し、18億ドルの損失を計上。公募増資を発表するも、信用不安から取り付け騒ぎが発生。
- 2023年3月10日: SVBの株価は大暴落し、銀行は閉鎖されてFDICの管理下に。
- 2023年3月12日: ニューヨーク州がシグネチャー銀行の事業停止を発表。
- 2023年3月13日: 英国のHSBCがSVB英国部門を買収。SVBとシグネチャー銀行の預金者に完全保護を発表。
- 2023年3月19日: NYCB傘下のフラッグスターがシグネチャー銀行の買収を発表。
- 2023年3月27日: ファーストシチズンズ・バンクシェアーズがSVBを買収。
- 2023年4月3日: FDICがシグネチャー銀行の融資債権の売却手続きを進行。
シリコンバレー銀行破綻の背後にある二つの主要因
シリコンバレー銀行（SVB）の破綻は、主に以下の二つの重大な要因に起因しています。
要因1: 急激なインフレと利上げによる影響
コロナ禍の金融緩和期間中、シリコンバレー銀行の預金残高はスタートアップからの資金調達の増加に伴い大きく膨れ上がりました。
これを受けて、銀行は利息収入を確保するために800億ドル以上の不動産担保証券（MBS）を購入しました。
しかし、2022年に連邦準備理事会（FRB）が利上げを行ったことで、これらMBSの価値が急落しました。
金利上昇による債権価格の下落は、シリコンバレー銀行に限らず、他の多くの銀行にも影響を及ぼしました。
要因2: SNSを中心とした取り付け騒ぎの発生
もう一つの要因は、SNSを中心とした取り付け騒ぎの発生です。
シリコンバレー銀行は米国のスタートアップやVC（ベンチャーキャピタル）を主な取引先としていましたが、一部のVCからは投資先企業へ、預金保険のカバー上限である1口座あたり25万ドルを超える金額の引き出しを勧める声が上がりました。
これにより、ピーター・ティール氏などの著名投資家からの影響力ある呼びかけも加わり、SNS上で不安が拡散しました。
結果として、大量の預金の引き出しが発生し、シリコンバレー銀行は債券の売却に追い込まれ、これまでの含み損が現実の損失として表れました。
シリコンバレー銀行破綻が暗号資産市場に与えた波紋」
シリコンバレー銀行の破綻は、暗号資産市場にも大きな影響を与えました。
以下では、この影響がどのように現れたのかを時系列に沿って詳しく見ていきます。
2023年3月9日
- JP MorganがGeminiとの業務関係終了の報道。Geminiはこれを否定。
2023年3月10日
- Circle社が、USDCの準備金約400億ドルのうち33億ドルがシリコンバレー銀行に預金されていたことを発表。
2023年3月11日
- USDCのデペッグが発生。一時0.87ドルまで下落。
- DAIが0.897ドル、USDDは0.925ドル、FRAXは0.85ドルまで下落。
- UniswapとCurveの24時間取引高がそれぞれ過去最大に。
- CoinbaseはUSDCとUSDの両替を一時停止。
2023年3月12日
- BinanceがUSDCペアの取り扱いを一部再開。
- Circle社は、USDC：USDの1：1償還が可能であると発表。
- USDCのペグ回復。DAI, USDD, FRAXもペグを回復。
2023年3月13日
- CoinbaseがUSDC：USDの両替を再開。
- BinanceがBUSDをBTC, ETH, BNBに交換することを発表。
2023年3月14日
- MakerDAOがUSDCの担保を減らす提案を可決。
2023年3月17日
- State StreetがCopperとの業務関係を終了。
2023年3月21日
- Coinbaseがシグネチャー銀行のSignetサポート終了を通知。
これらの事象は、シリコンバレー銀行の破綻がいかに暗号資産市場に影響を及ぼしたかを示しています。
特にステーブルコイン市場は、信用不安により大きな動揺を見せました。また、主要な取引所や金融機関の反応も、この危機の深刻さを物語っています。
暗号資産市場の短期的な波紋
シリコンバレー銀行（SVB）の破綻は、暗号資産市場にも短期的だが顕著な影響を与えました。
この影響は主に以下の3つの点で顕著です。
短期的影響1: ステーブルコイン全体への信用不安
最初の影響は、ステーブルコイン全体への信用不安です。
2023年3月11日に、USDCの発行元であるCircle社が、シリコンバレー銀行にUSDCの準備金の一部が滞留していることを発表しました。
これによりUSDCは一時的にデペッグ（価値の乖離）を経験し、これが他のステーブルコインにも波及しました。
短期的影響2: DEX（分散型取引所）の取引高増加
次に、DEX（分散型取引所）の取引高の増加が見られました。
ステーブルコインの信用不安が売却を促進し、UniswapやCurveなどのDEXでの取引量が過去最高を記録しました。
また、中央集権型取引所（CEX）からDEXへの資金流出も確認されました。
短期的影響3: ステーブルコインからビットコイン（BTC）への資金流入
最後に、ステーブルコインからビットコイン（BTC）への資金流入がありました。
シリコンバレー銀行破綻後、ビットコイン価格は18%以上上昇し、4月11日には400万円（3万ドル）を超える価格に達しました。
この価格上昇の背景には、ステーブルコインへの信用不安からビットコインへの資金移動が一因とされています。
暗号資産市場の長期的波紋
シリコンバレー銀行の破綻は、暗号資産市場に対しても長期的な影響を及ぼす可能性があります。
以下では、その長期的な影響について3つの重要なポイントを解説します。
長期的影響1: 暗号資産企業の資金調達が厳しくなる可能性
シリコンバレー銀行と共に、暗号資産関連企業が利用していたシルバーゲート銀行やシグネチャー銀行も事業を停止しています。
これにより、暗号資産関連企業の資金調達が今後厳しくなる可能性があります。
特に、新しいプロジェクトやイノベーションのための資金調達が難しくなるかもしれません。
長期的影響2: 暗号資産関連企業のサービス変更によるビジネスの停滞
シルバーゲート銀行のSEN（シルバーゲート・エクスチェンジ・ネットワーク）の停止など、暗号資産関連企業が利用しているサービスの変更により、取引の遅延や業界全体の成長の鈍化が起こる可能性があります。
また、新たな銀行とのパートナーシップの必要性が生じ、ビジネスモデルの再構築が求められるかもしれません。
長期的影響3: 金融システム全体の信用不安によるビットコインへの資金流入
シリコンバレー銀行の破綻に加え、クレディ・スイス銀行の経営危機など、銀行業界全体の信用不安が広がることで、ビットコインなどのデジタル資産への長期的な資金流入が起こる可能性があります。
これは、伝統的な金融システムに対する不信感から、より分散化された資産への関心が高まることに起因しています。
まとめ
シリコンバレー銀行（SVB）の破綻は、短期的および長期的に暗号資産市場に大きな影響を与えました。
短期的には、ステーブルコインの信用不安、DEXの取引高増加、そしてビットコインへの資金流入が顕著でした。
長期的な影響としては、暗号資産関連企業の資金調達が困難になる可能性、業界のビジネスモデル変化、そして従来の金融システムへの不信からデジタル資産への資金流入が予想されます。
これらの動きは、暗号資産市場の将来に重要な意味を持ち、業界の構造変化や投資家の行動に大きな影響を及ぼすことが考えられます。
市場の動向を観察しながら、この変化を理解し適応していくことが、暗号資産市場に関わるすべての人々に求められるでしょう。
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