ブロックチェーンの基本概念④スマートコントラクトとブロックチェーンの応用事例 – 新たなビジネスの可能性を探る

目次

⚫️スマートコントラクトの概要
 ースマートコントラクトとは?
 ー特徴
⚫️金融業界とスマートコントラクト
 ーP2Pローンとマイクロファイナンス
 ー保険
 ーデリバティブ取引
 ートークン化と資産の分割
 ー自動的な配当の支払い
⚫️スマートコントラクトの課題
⚫️まとめ

はじめに

これまでの回では、ブロックチェーンの基本情報、仕組み、暗号技術について解説してきました。

今回は、スマートコントラクトとブロックチェーンの応用事例について説明し、新たなビジネスの可能性を探ることが目的です。

スマートコントラクトは、ブロックチェーン技術を活用した自動実行可能な契約であり、多くの業界で活用が期待されています。

スマートコントラクトの概要

スマートコントラクトとは?

スマートコントラクトは、ある特定のルールに従って自動的に実行されるデジタル契約のことです。

これはコンピューターコードで書かれ、そのルールが満たされたときに自動的に実行されます。

スマートコントラクトは主にブロックチェーン技術と一緒に使われ、一度契約が結ばれると変更や取り消しができない特性があります。

スマートコントラクトは、自動販売機のようなものだと思ってください。
自動販売機にコインを入れてボタンを押すと、選んだドリンクが出てきますよね。

これは、あなたがコインを入れてボタンを押すという「ルール」を満たしたからです。スマートコントラクトも同じような仕組みです。

例えば、「AさんがBさんに100ドルを払う」ことをスマートコントラクトに書き込みます。
そして、その契約がブロックチェーンに保存されます。

Aさんが100ドルを払うと、スマートコントラクトは自動的に実行され、Bさんのアカウントに100ドルが移動します。

このとき、スマートコントラクトは自動販売機のように自動的に動作します。
つまり、Aさんがお金を払ったら、Bさんにお金が移動するという「ルール」を満たしたからです。

そして、一度スマートコントラクトがブロックチェーンに書き込まれると、それを変更することはできません。

これは、自動販売機にコインを入れてボタンを押した後、選んだドリンクを変更することはできないのと同じです。

スマートコントラクトは、契約条件やロジックがプログラムとして記述されたデジタル契約です。

ブロックチェーン上で実行され、条件が満たされると自動的に取引が実行されます。
スマートコントラクトの特徴は以下の通りです。

スマートコントラクトの特徴

1.自動実行
 契約条件が満たされると自動的に実行されます。

2.透明性
 ブロックチェーン上に記録されるため、取引の透明性が保たれます。

3.セキュリティ
 分散型ネットワーク上で実行されるため、改ざんや不正が困難です。

金融業界とスマートコントラクト


スマートコントラクトは金融業界において多くの可能性を開く技術で、その使途は非常に広範です。以下にいくつかの事例を示します

P2Pローンとマイクロファイナンス


P2Pローン(Peer-to-Peer lending)は、個人から個人へ、または個人から企業への直接的な貸出しを指す金融サービスです。

これは伝統的な金融機関(銀行やクレジット会社など)を仲介者とする形式から逸脱し、貸し手と借り手を直接つなぐ方法です。

P2Pローンはオンラインプラットフォームを通じて行われ、しばしば投資家と借り手の間でより良い利率を提供します。

スマートコントラクトとブロックチェーン技術は、P2Pローンの実現に役立ちます。

これらの技術を使用すると、貸し手と借り手は直接取引でき、契約の履行は自動的に管理されます。

スマートコントラクトは、借り手が返済条件を満たすと自動的に実行されるため、ローンの返済が自動化されます。

たとえば、Aさん(貸し手)がBさん(借り手)に対して1,000ドルを貸すというスマートコントラクトを作成します。

そして、Bさんが毎月100ドルを返済するという条件を設定します。Bさんが毎月100ドルを返済するたびに、スマートコントラクトは自動的に実行され、その支払いがAさんのアカウントに移動します。

このようなシステムにより、P2Pローンは中間者の必要性を排除し、プロセスを自動化し、取引の透明性を確保します。

ただし、信用リスク(借り手が返済を怠る可能性)を管理するための適切なメカニズムが必要で、これはP2Pローンの大きな課題となっています。

P2Pと現行の取引システムの違いは?

P2P(Peer-to-Peer)取引と現行の取引システムとの主な違いは、中央の仲介者が必要かどうかにあります。

現行の取引システムでは、大抵は中央の仲介者が存在します。たとえば、銀行送金を考えてみましょう。あなたが友人にお金を送りたいとき、その送金は通常、あなたの銀行から友人の銀行へと行われます。この場合、銀行が中央の仲介者となり、取引の確認や処理を行います。

しかし、この中央の仲介者が存在するシステムには、いくつかの欠点があります。中央の仲介者が必要なため、手数料が発生することがあります。また、取引の速度は、中央の仲介者のシステムや規則に依存します。

一方、P2P取引では、中央の仲介者は存在しません。つまり、あなたが友人に直接お金を送ることができます。これは、ブロックチェーン技術によって可能になりました。ブロックチェーン技術を使うと、取引はネットワーク全体で確認され、記録されます。

このP2Pシステムの利点は、手数料が低くなったり、存在しない場合があること、また、取引が直接行われるため、処理速度が速くなることがあります。しかし、P2Pシステムも新しい技術なので、まだ改善の余地がある部分もあります。

これらの違いを理解することで、どのような取引システムがあなたのニーズに最も適しているかを判断することができます。

「マイクロファイナンス」は、伝統的な銀行システムが十分に提供できていない地域や人々に対して、小規模な財政サービスを提供することを指します。

主に、発展途上国の低所得者や非正規労働者など、銀行口座を持たないか、あるいは銀行から融資を受けることが難しい人々を対象としています。

マイクロファイナンスの目的は、金融サービスへのアクセスを改善し、貧困層の経済的自立を支援することです。しかし、

マイクロファイナンスの実施には、高い運用コスト、債務者の返済能力の問題、利子の設定など、さまざまな課題があります。

保険


スマートコントラクトを使用した保険契約は、保険金の支払いを自動化することが可能です。

例えば、フライト遅延保険や作物保険などのパラメトリック保険(特定のパラメーターが満たされた時に自動的に支払いが行われる保険)では、スマートコントラクトを用いることが一般的です。

以下に具体的な例を示します。

フライト遅延保険

旅行者がフライト遅延保険に加入し、その契約をスマートコントラクトに記録します。
契約の条件は「フライトが3時間以上遅れた場合、旅行者に500ドルを支払う」とします。

そして、このスマートコントラクトは航空情報データベースと接続されています。
フライトが3時間以上遅れたとき、航空情報データベースはその情報をスマートコントラクトに自動的に送信します。

スマートコントラクトは遅延情報を確認し、自動的に旅行者のアカウントに500ドルを送金します。

このプロセスは自動的に行われるため、旅行者は保険金を受け取るためにクレームを提出したり、保険会社に連絡したりする必要がありません。

このようなスマートコントラクトの利用は、保険契約の履行を効率的にし、不要な手続きや待機時間を減らすことができます。

しかし、現在でも法的な課題やデータのプライバシー、スマートコントラクトのセキュリティなど、解決すべき問題が存在します。

デリバティブ取引


デリバティブ取引(派生金融商品取引)とは、その価値が基礎となる資産(株式、債券、商品、通貨、指数など)から派生する金融契約の取引を指します。

スマートコントラクトは、デリバティブ取引の条件(たとえば、期限や価格)が満たされたときに自動的に実行されるため、取引の効率性と透明性を向上させることができます。

たとえば、先物契約のスマートコントラクトを考えてみましょう。
Aさんは、3か月後に1ビットコインを10,000ドルで購入するという先物契約を結びます。

これをスマートコントラクトに記録します。
3か月後、ビットコインの価格がスマートコントラクトに自動的に更新されます。

価格が10,000ドル以上であれば、スマートコントラクトは自動的に実行され、Aさんは1ビットコインを10,000ドルで購入します。

価格が10,000ドル未満であれば、スマートコントラクトは実行されず、Aさんは何も購入しません。

このように、スマートコントラクトはデリバティブ取引を自動化し、中間者の必要性を排除し、取引の透明性を確保することができます。

しかし、スマートコントラクトの実装と使用にはいくつかの課題が存在します。
(実装:実際に機能するプログラムやシステムにすること)

これには、契約コードのバグやセキュリティ問題、プライバシー問題、法的な課題などが含まれます。

トークン化と資産の分割


不動産や美術品のような高価な資産をデジタルトークンに分割し、これをブロックチェーン上で売買することができます。

スマートコントラクトは、所有権の移転を自動的に処理するため、このプロセスをより効率的かつ透明にすることができます。

トークン化と資産の分割は、ちょっと難しそうに見えるかもしれませんね。
だから、ピザを使って説明してみます。

まず、「トークン化」とは、何かをデジタルの形にすることを意味します。

だから、あなたがピザ屋さんを持っていて、そのピザ屋さんをデジタルにしたいと思ったら、それを「ピザトークン」として表現できます。


つまり、「ピザトークン」を持っている人は、そのトークンを使ってピザ屋さんの一部を所有しているということになります。

次に、「資産の分割」は、大きなものを小さな部分に分けることを意味します。

だから、あなたが大きなピザを作ったとき、それを一人で全部食べるのは大変だと思いますよね。

だから、あなたはピザをいくつかのスライスに切り分けます。これで、友達と一緒にピザを分け合って楽しむことができます。

これと同じように、大きな資産(例えば、ビルや会社)も「分割」することができます。

それをたくさんの小さなトークンに分けることで、多くの人がその資産の一部を所有することができます。

これにより、普通の人々でも、大きなビルや会社の一部を所有することが可能になります。

デジタルトークンとは?


デジタルトークンを理解するためには、図書館の本を借りるという状況を考えてみてください。
図書館にはたくさんの本がありますが、それらを借りるためには図書館カードが必要です。
この図書館カードがあることで、あなたは本を借りる「権利」を持つことができます。

デジタルトークンも同じようなものです。デジタルトークンは、特定のサービスを利用するための「パス」のようなもので、それぞれが特定の価値や権利を持っています。

例えば、ビットコインはデジタルトークンの一種で、ビットコインを持っていることで、ビットコインを受け取ることができる人々に対して、ある種の価値(お金)を送る権利を持つことができます。

また、デジタルトークンはデジタルアートや音楽などのデジタル資産の所有権を表すこともあります。

これは、あなたが図書館から本を借りるのと同じように、あなたがそのデジタル資産を「借りる」または「所有する」権利を持っていることを意味します。

しかし、トークンの価値はそのトークンが使用できる「場所」(ブロックチェーンや特定のデジタルプラットフォーム)によって異なります。

これは、図書館カードがその図書館でのみ有効であるのと同じです。


自動的な配当の支払い

スマートコントラクトは、配当金の自動支払いを実現するのに有用なツールです。

スマートコントラクトは自動的に実行されるプログラムなので、特定の条件が満たされたときに自動的に配当金を送付することが可能です。

具体的には、ある企業が株式をデジタルトークンとして発行し、そのトークンホルダー(トークンを所有している人)への配当金の支払いをスマートコントラクトで自動化するという形になります。

以下に簡単な例を挙げてみます

  1. 企業Aがデジタルトークンを発行し、それを投資家に売ります。これらのトークンは企業Aの所有権の一部を表しています。
  2. 企業Aが利益を上げると、その一部が配当金としてトークンホルダーに分配されます。
  3. 企業Aはスマートコントラクトを設定します。このスマートコントラクトは、企業が利益を上げたときに自動的にトークンホルダーに配当金を支払います。
  4. 利益が発生すると、スマートコントラクトは自動的に作動し、それぞれのトークンホルダーのウォレット(暗号資産を保管する財布)に配当金が入金されます。

このように、スマートコントラクトを使用すれば、配当金の支払いを自動化し、手間を省くことが可能です。

また、スマートコントラクトはブロックチェーン上で実行されるため、取引の透明性も確保されます。

スマートコントラクトの課題

これらの例は、スマートコントラクトが金融業界にもたらす可能性をいくつか示しています。
しかし、スマートコントラクトの実装には多くの課題が存在します。

これには、法規制、プライバシー、セキュリティ、技術的な課題などが含まれます。

法規制

スマートコントラクトはまだ新しい技術であるため、多くの国や地域ではまだ具体的な法律や規制が確立されていません。

これにより、スマートコントラクトの使用が法的な問題を引き起こす可能性があります。

プライバシー

スマートコントラクトは公開されたブロックチェーン上で実行されるため、プライバシーが問題になる可能性があります。

個人や企業が取引の詳細を他人に見られたくない場合、これは大きな問題となります。

セキュリティ

スマートコントラクトはコードで書かれており、そのコードにバグがあると、攻撃者がそれを利用して契約から資金を盗むことが可能です。

2016年のDAO(分散型自律組織)のハッキングは、この問題の良い例です。

2016年に一つのDAOが大きな注目を集めました。
それは”The DAO”と呼ばれるもので、その目的はイーサリアム(暗号資産の一種)のブロックチェーン上で投資を集め、それを使ってプロジェクトを資金提供することでした。

しかし、The DAOはハッキングの対象となりました。

ハッカーはThe DAOのスマートコントラクトに存在する脆弱性を突き、約3600万ドル相当のイーサリアムを盗み出すことに成功しました。

この事件は大きな問題となり、イーサリアム自体の分裂(ハードフォーク)につながる結果となりました。

イーサリアムは盗まれた資金を取り戻すためにブロックチェーンを分裂させ、それが現在のイーサリアム(ETH)とイーサリアムクラシック(ETC)の二つのチェーンに分かれる原因となりました。

このハッキング事件は、ブロックチェーンとスマートコントラクトのセキュリティの重要性、そして新しい技術のリスクについての認識を深める機会となりました。

DAO(分散型自立組織)とは?

「DAO」または「分散型自律組織」は難しそうな言葉ですね。

わかりやすく説明するために、クラスの運営を例にしてみましょう。

クラスの中で何か決め事をするとき、普通は先生が決めますよね。
でも、それをみんなで決めたいと思ったらどうするでしょう?
それがDAOの考え方です。

DAOは、みんなでルールを決め、そのルールに従ってクラスを運営するようなものです。

それぞれの子供は、クラスで何をするべきか、どういうルールが必要かについて投票できます。

そして、最も多くの票を得たルールが採用されます。

これが「分散型」です。
決定権が中央の先生ではなく、クラスのみんなに分散されているのです。

それから、「自律組織」は、一度決められたルールが自動的に実行されるという意味です。
例えば、「授業が始まるときはみんなが席につく」というルールがあるとしましょう。

このルールが自動的に実行されるようにすると、先生がそれを管理したり、子供たちに注意したりする必要がなくなります。これが「自律」です。

これがDAOの考え方です。

みんなでルールを決め、そのルールが自動的に実行されることで、フェアで公平な組織を作ることができます。

そして、これをブロックチェーンという特殊な技術を使って、実際の組織や企業で実現しようとしているのがDAOなのです。


技術的な課題

スマートコントラクトを作成、デプロイ(他の人が見たり使ったりできるように公開すること)、管理するためには、ブロックチェーン技術とコーディング(プログラムの入力)に関する深い知識が必要です。

これは、多くの企業や個人にとって大きな障壁となります。

これらの課題にもかかわらず、スマートコントラクトは金融業界における取引の透明性と効率性を大幅に向上させる可能性を持っています。

今後の技術的な進歩と規制の進展により、これらの課題が解決されることを期待しています。

まとめ

今回は、スマートコントラクトとブロックチェーンの応用事例について説明しました。

スマートコントラクトは、自動実行、透明性、セキュリティといった特徴を持ち、ブロックチェーン技術と組み合わせることで、多くの業界で効率化や信頼性の向上が期待されています。

金融業界やサプライチェーン管理、不動産業界、著作権管理、投票システムなど、さまざまな分野でブロックチェーン技術が活用されており、新たなビジネスの可能性が広がっています。

今後、ブロックチェーン技術はさらに発展し、新たな応用事例が登場することでしょう。

技術の進歩に伴って、社会やビジネス環境にも大きな変化が起こることが予想されます。

ブロックチェーン技術の理解を深め、その応用事例を学ぶことで、未来のビジネスチャンスに備えることができます。

次回は、ブロックチェーンの普及に向けた課題や展望について説明していきます。
引き続き学んでいきましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA